ノッキンオン・ロックドドアに今更ハマった話

ノッキンオン・ロックドドアという作品にハマった。

危険な予感がしたのは1週間ほど前のことだが、そこからスプラッシュ・マウンテンも私もびっくりな速度でドボンした。本作の実写版ドラマが放送されていたのは今年の夏。微妙にずれたタイミングだが、そんなことはおかまいなしに私は原作1巻を読み終え、続く2巻を狂ったように半日で読み終えた。

そう。私はドラマではなく、原作の小説で沼へと落下したのである。

 

といいつつ、実はドラマもしっかりリアルタイムで追っていた。主演は松村北斗×西畑大吾。監督は堤幸彦。情報解禁時、私は飛んだ。というのも先に申し上げておくと、私は主演2人のオタクだ。しかも西畑大吾くんは自担、いわゆる推しである。さらに私はSPECシリーズにドハマりした過去があり、あらゆる意味で夢のコラボの本作に「こんなの面白くないわけないじゃん!?」とワクワクが止まらなかった。が、いざ放送が始まると事件が発生する。

ぜんぜん入り込めない。

思い当たる理由は2つ。1つめは、ミステリ向きでない私の頭が30分枠に凝縮された難解なミステリ要素についていけなかったことだ。もともと私は謎解きが苦手であり、そもそも解こうという気すら起きないタイプだ。決してミステリが嫌いというわけではないのだが、出だしから難解な話を展開されるとどうにも壁を感じてしまう。とか言いながら金田一少年の事件簿(原作)が好きだったりする。ドラマと漫画は違うのかもしれない。

2つめは、ひじょうに短い時間の中で、あの複雑かつ濃密な人間関係にうまく入り込めなかったことだ。そもそも1つめの壁がすでにけっこうデカイので、おそらくここまで辿り着かなかった。悲しい。

結局私にとってドラマ版ノキドアは最後まであくまで"推しの出演ドラマ"を観ている状態であり、残念ながら作品そのものを楽しむことはあまりできなかったのである。


が、私は1話からずっと心に引っかかっていることがあった。西畑大吾くん演じる片無氷雨という男についてだ。1話のわりと早い段階から漠然と思っていたことがある。

 

「私、きっと原作のこの男が好きーー」

 

それは長年オタクをやってきた女の、鍛えられた直感だった。

ちなみに原作の、というのは、決して大吾くんのお芝居がダメだったとかそういう理由ではない(むしろすばらしかった)前述の通り"推しの出演ドラマ"を観ている状態だった私がドラマ版の氷雨をわりと大吾くん寄りで、というか大吾くんとして観てしまっていたためである。えーんもちもちしてる過呼吸かわいいむりって感じで(最低)

 

ドラマ終了後、私は期待値が高すぎたんだろうか……と少ししぼんだ気持ちで、ドラマ放送とほぼ同時に購入した原作を読み進めた。愛する舞浜のハロウィンパレードが始まったため、読書の時間はたっぷりある(パレ待ち)原作を読めば印象が変わるのかもしれないという淡い期待もあったが、何より私は片無氷雨のことが知りたかった。最後の最後までドラマにハマることはできなかったが、さすがに最終話の展開は私に大きな衝撃を与えたからである。

そして冒頭にも書いた約1週間前、その日はやってきた。予想通り片無氷雨はあまりにも好きな男だったが、その程度ではすまなかった。これは全く予想していなかったが、その存在ごと、倒理と氷雨という2人の主人公の関係性にどっぷりとハマったのである。いや、転げ落ちたのほうが正しいかもしれない。

そして爆速で読み終えた2巻をそっと閉じ、素直に思った。

 

この男たち……怖……


※以下ネタバレと感情の殴り書き

 

前述の通り、ノキドアの主人公は御殿場倒理(演:松村北斗)と片無氷雨(演:西畑大吾)の2人だ。

どちらも探偵だがそれぞれに得意分野があり、倒理は不可能(HOW)担当、氷雨は不可解(WHY)担当。2人ともそれ以外のことはさっぱりできないため、足りない部分を補い合う形で協力して活動している。

もともとは大学の同級生であり、ゼミで犯罪心理学について共に学んでいた仲間だ。性格も容姿も正反対で、変人で悪魔のような見た目の倒理と、真面目で毎回助手に間違われる無個性な氷雨。お互いに「仕方なく」一緒にいると言いつつもなんだかんだ仲良し(ちなみにドラマよりも原作のほうが仲良し)で、一緒にいるのがあたりまえになっているところがありそこがちょっとかわいい、なんてはじめは思っていたのだが、そこへやってきたのがドラマ最終話の衝撃である。それは過去に倒理が殺されかけ、首に一生消えない傷を負った事件の犯人が氷雨だった、というもの。うん……え、なんて?

こうしてドラマ最終話は私に虚無だけを残していった。

 

原作を読み進めていくと、2人の関係の異常性がじわじわと少しずつ、染み渡るように伝わってくるのが面白い。お互い自分たちのことを打算的でドライな関係であると思っている、あるいはそう思おうとしているように見える(特に氷雨)のだが、傍から見たら少しもそうは見えないしなんというか湿度が高いのだ。絶対にそれ以上の何かがあるだろ、と。

氷雨は普段はごくごく普通なのだが(それもそれで怖いが)友人からは「倒理に殺されたがってる」と言われ、どこかじっとりした倒理へのクソデカ感情というか、激重感情が見えて「ん……?」と小首を傾げたくなるタイミングがある。ちなみに私は小首を傾げてそのまま足を踏み外した。病んでいるというよりはすごくナチュラルで、あっさりしているのが逆に怖い。特にドラマにもあった倒理の首の傷に触れるシーンは、すごく普通に見えて得体のしれない何かを感じる。私が倒理だったら頼むからお前だけは触るなと思う。なお、わりとどうでもいい部分でもオタク的に「なんで???」と聞きたくなる部分が増えてくる。バレンタインにチョコレート買って帰るところとか

倒理も倒理で、頸動脈かすめるほどの傷を負うおっそろしい目に遭ったというのに、さらにはそれが原因でクソ暑い夏でもタートルネック着てなきゃならないのに「お前を犯罪者にしたくなかった」という理由で氷雨が犯人だということを誰にも言わず、1度も氷雨を責めず、一緒に探偵をやっているどころか一緒に住んでいる。いや怖いわ。さらには過去に切りつけられた後ーーここは氷雨視点で語られている部分なので、氷雨の願望かもしれないが「ひどく嬉しそうだった」そう。たしかにドラマでも笑っていた。うん、なんで???

そもそもそんな事件が発生した原因は、とある事件に関わった倒理が行き過ぎた行動を起こそうとしたせいではあるのだが、倒理という人間の危うさを感じ「どうしても止めたかった」「倒理を犯罪者にしたくなかった」という理由はともかく、ナイフで首を切りつける選択肢がある氷雨のほうがよっぽど危ういし怖いんだが。

 

お察しの通り2人がどこか欠けているのは"探偵として"ではなく、そもそも"人間として"なのだが、いちばんおそろしいのはそれが特別異常なものとして書かれず、あまりにも2人の中で"あたりまえ"として書かれているところだ。この2人、正直かなりまともじゃないと思うのだが、嘘だろ信じられないとこちらの情緒がぐちゃぐちゃになっている間もストーリーはわりとさらさら進んでいくし、なんだか今後も仲良くやっていくようなのでだんだん「まあお互いが納得してるならいいけどさ!」という気持ちになってくる。いやしかしこの異常さをあたりまえにしてしまう2人よ……いや……さっぱりした関係に見えて読み終えるとずっしりくるんだよなあなたたち……もう名前からして欠落感たっぷりなのがいいよね。最近のバディものにありがちな離別エンドの匂いが全くしないのも良い。

 

オタクは得体のしれない激重感情というものが大好きだが、この2人はそれをちょっと煮詰めたらおいしいジャムができたみたいなよくわからない関係である。全く理解ができないし怖いし狂ってるのだが、2人がいいならもういっか……という感覚はわりと楽しいです。みんな読んで。

ちなみに私はこの2人の話がしたかったので倒理と氷雨オンリーになってしまったが、彼らの周りにはJK家政婦薬子ちゃん(かわいい)や激カワクール刑事穿地(大好き)特定のオタクにめちゃめちゃ刺さりそうな犯罪コンサルタント美影(ドラマも早乙女太一さんがとんでもなく良かった)といった魅力的な人物が多くいるので、そちらが気になる方もぜひ原作もしくはもっとまともな感想を読んでほしい。

 

現在原作もドラマも2周目に入ったが、どちらも2周目めちゃくちゃ面白い。トリック全部解けてるし

ようやく楽しめるようになったドラマは2人のお芝居から目が離せないし、過去の事件の真相を知ってしまっているのでしんどいポイントがあちこちにある。そしてごめん氷雨がずっと怖い(ごめん)大吾くんめちゃめちゃいいお芝居してるよ……たまに目がとても怖いよ……原作の氷雨は健やかにやばいやつだが、ドラマ版の氷雨はなんというかこう、もうちょっと闇に寄せた感じがある。倒理が倒れた時に過呼吸を起こしてしまったり、倒理に自分がいなくなっても追いかけないでほしいと言ったり。「なんで他の探偵が出てくるの?」の部分も原作よりも濁りというか圧というか、闇を感じた。それはそれで良。

 

結局ドラマ版ノキドアにもしっかりハマった私はブルーレイを予約し、シナリオブックを購入し、円盤待てるか今すぐ観たいとテラサも登録し、原作もすでに2冊とも所持しているにもかかわらずいつでも読めるようにKindle版を購入し、毎日がノキドア漬けになったのだった。私は火が点くと止まらないのだ。主に出費が。

しかし西畑大吾くん、今年だけで私の勝手な悲願だった「ホラー映画に出てほしい」を叶えてくれて、さらには頭のおかしい役まで演じてくれるなんて。オタクこんなに供給されていいのか。本当にありがとう。

 

ほくだい、めでたく人刺したコンビになったな(めでたくない)